PIGMENT岩泉館長が語る4500色の顔料とその特性 vol.2

PIGMENT岩泉館長が語る4500色の顔料とその特性 vol.2

―以前の記事で、PIGMENTの4500色についての概要をお聞きしましたが、この中でも古くから使われている色はどちらになりますか。

基本的には、群青や緑青などの青と緑、そしてそれらが混ざった群緑が使われていました。

―ひとことでいうなら、天然の岩絵具はどのような特性を持っているのでしょうか。

そうですね、自然物から作り出された色なので、塗ったときの調和は人工物と比べて「彩度がありながらも、落ち着いた色味」を持った顔料が多いです。

―なるほど。では日本絵画は全て岩絵具で描かれていたのでしょうか。

実は違うんですよ。

―え、そうなんですか。

はい、確かに岩絵具として群青と緑青は古くから使われていました。しかし、日本の絵画が全て岩絵具だけで描かれるようになったのは、昭和に入ってからなんです。

もちろん、その他の鉱物が使われることもあったのですが、江戸以前では「岩絵具」というと、この2色のことを指していました。


―そうなりますと、どのような顔料が使用されていたのですか。

同じ天然物でも、鉱物以外のもの……例えば黄土や弁柄、酸化鉄などが使用されていました。あとは完全な天然物とは言い切れないですが、辰砂という石から精製した朱や、鉛を主原料とする鉛白や鉛丹、イタボガキという貝の殻からつくった胡粉などが使用されていました。

―なるほど。でも…まだまだ絵を描くには色数が足りないような気がするのですが……。

はい、今お伝えした色を大まかに分類すると青、緑、黄色、茶色、赤、白などだけで、黒は墨を、金と銀は箔や金泥を使用したとしても、絵を描く上でまだまだ色数が足りないですよね。

―全て異なった素材となると、チューブ絵具のように混色したりすることが難しいですよね。

そうなんです。そこで昔の絵師たちは何を使ったかというと…さきほどお話した胡粉を使用していました。

また、自然由来の顔料は種類が限られていましたが、染料には様々な種類の色が存在していました。それを胡粉と混ぜることで、絵具にしていたんです。

例えば、藍色、臙脂色などが代表格ですね。それらを混色することで紫色……日本語では潤色ともいうのですが、そういった色を作り出していました。また、藍色と黄色系の染料を混ぜることで、木々などに使用する緑色を作っていました。もちろん、グレーを使いたい時は墨と胡粉を混ぜることで色の濃淡も作れます。

これらを総称したものが、液体系の色材に具を持たせるという意の具絵具、具墨と呼ばれております。

―そうだったのですね、知りませんでした。

また、天然の岩絵具は粒子が大きく、フラットな面を作るためには相当な量の顔料が必要になります。しかし、昔は今以上に天然の青や緑はとても高価だったため、下地に藍色の具絵具を塗り、その上から天然の群青を重ねることで青の色味を作り出していました。また、この表現をすることで、岩絵具の美しい粒子感と具絵具の発色という、ハイブリットな色面を作り出すことができるのです。

―そうなると、胡粉は日本絵画を知る上で外せない材料ですね。

はい。なので江戸以前の絵画は、こうした異素材同士を組み合わせることで生まれる、色彩と質感の響き合いが重要視されていました。


Profile

大矢 享

PIGMENT TOKYO 画材エキスパート

大矢 享

1989年東京生まれ。 日本大学大学院芸術学研究科造形芸術専攻博士前期課程修了。 PIGMENTにて画材エキスパートとして携わりながら、平面作品を中心にアーティスト活動中。

1989年東京生まれ。 日本大学大学院芸術学研究科造形芸術専攻博士前期課程修了。 PIGMENTにて画材エキスパートとして携わりながら、平面作品を中心にアーティスト活動中。