PIGMENT TOKYO 夏の特別ワークショップ

PIGMENT TOKYO 夏の特別ワークショップ

PIGMENT TOKYOでは、夏季に期間限定で開催するワークショップがございます。
2023年は創作活動をされている方だけでなく、美術や画材、作品の保管、保存技術にご興味がある方に向けた特別企画講座を2種ご用意いたしました。
「伝統技術で作品を仕立てる」「古典的な手法で絵具をつくる」という、どちらも作品制作には縁が深いことですが、アーティスト自身も実際はあまり行わない作業過程ではないでしょうか。
時代を経てもなお、今日に受け継がれた技術を理解し、見出す学びの場としてご活用ください。


ひとつめは、日本の伝統的な作品を補強する手法を学べる講座です。

 



[特講]裏打ち


開催日程:2023年8月12日(土)
時間:13:00〜17:00
講師:物部 泰典(物部画仙堂)
受講料:一般¥16,500 (税込・材料費込)
対象年齢:なし
ご予約:[特講]裏打ち 23/08/12 – PIGMENT TOKYO
【お持ち物】
裏打ち実習用として、F10号サイズ(53cm×45.5cm)までの紙や絹の作品を複数お持ちいただくことをおすすめいたします。自作他作は問いません。裏打ちが可能な作品かご不安な場合は、メールにてお問い合わせください。
また、実習用の作品がご用意出来ない場合や、裏打ちの指導のみご希望の方は手ぶらでお越しください。PIGMENT TOKYOにて準備いたします。

お問い合わせ - PIGMENT TOKYO


裏打ちとは、紙や絹などを基底材に用いた作品の補強や変形を防ぐために施す技法です。
掛軸や額、襖、屏風などに表装する際には、最初に行う重要な工程でもあります。
現代では、表具に仕立てずとも、展示や長期的な保管を鑑みて裏打ちをされる方も多くいらっしゃいます。しかし、専用の道具や技術も必要なため、初心者が個人で施工するにはたいへんハードルが高い技法です。
本講座では、紙本や絹本にて作品制作し、その過程で自ら裏打ちを施したい、日本の表装技術を学びたい方に向けて、作品の鑑賞と保存のための基礎となる裏打ち実習を行います。


講座内容について、ご紹介いたします。

講義では、初めての方にもわかりやすく、道具や手順をご説明いたします。疑問点がございましたら、ご遠慮なく講師にご質問ください。
デモンストレーションのあとは、いよいよ裏打ちの開始です。

 


《和紙》刷毛で紙本を濡らす作業風景


水張りをしていない紙や木枠から外した絹の作品には、シワやツレ、たるみがあります。
紙や絹は湿度の保有率により伸縮性に富む基底材です。高湿度の状態で伸び、乾燥し低湿度になると縮む性質があり、その影響で基底材と色材の伸縮率の差によってシワやツレが発生します。
ところが裏打ちではその特性を生かし、専用の刷毛や霧吹きで本紙(作品)を濡らし、きれいに整えてあげます。
整え方ひとつとっても、紙と絹では仕様が変わります。性質の異なる基底材は、それぞれの特徴に合わせた手順と道具で行います。素材の個性とその扱いを知ることで、今後の制作や作品のプレゼンテーション、保管を考慮する際にもよい影響をもたらすかもしれません。
 
 


シワやツレが伸びた作品の裏面に刷毛で糊を塗布し、薄手の和紙を貼り補強します。
裏打ちにはその工程に合った刷毛を使います。
そのポイントは穂の材質。このような受け継がれた道具や手法には必ず理由があります。
熟練の工芸士の技を間近で見ることで、画材と伝統技術の見識を得られることでしょう。


 
《絹本》裏打ち風景

こちらの存在感のある大きな刷毛は、絹本など裂(織物、布地)の裏打ちに必需品である「打ち刷毛」。
この厚みのある穂と刷毛全体の重量を生かし、本紙と裏打ち紙を圧着させます。
圧着だけでなく、打つ程にしなやかになり、巻いて保管をする際にも折れにくくなります。

 

 


仮張り風景

 

仮張りを行い、いよいよ仕上げの作業です。
裏打ちした作品を臨時に張り付け、平らに乾燥させることを仮張りと言います。
角材を格子状に組み、その表裏に丈夫な紙質の楮紙を張り重ねた表面に、何層にも柿渋を塗布した仮張り板を使います。仮張り板は製作に手間を要する上に市販品がないので、一般的には非常に入手が困難なレアツールのひとつです。代替の材料で作ることもできますが、このように本格的な道具を使うことができるのも体験型のワークショップから得られる醍醐味のひとつです。
乾いた本紙を仮張り板から剥がしたら、完成です。
見違えるように張りが出た本紙には凛とした余白の美が生まれ、描画や色もより一層引き立ちます。
ご自身の大切なアート作品の仕上げとして裏打ちの効果を取り入ることも、表現の幅を広げる手立てになるのではないでしょうか。

 


裏打ちについては、こちらの記事にて詳しくご説明しております。講座の予習や復習にもお役立てください。
 裏打ちの所作 -輪郭- – PIGMENT TOKYO
 裏打ちの所作 -手法-– PIGMENT TOKYO
 

 

 

 

 

もうひとつは、ご要望の多かった油絵具をつくる講座です。

 



[夏休み特別入門]油絵具づくり

日程:2023年8月5日(土)、8月19日(土)、8月26日(土)
時間:14:00〜16:30
講師:斉藤 桂(PIGMENT画材エキスパート)
受講料:¥9,900(税込・材料費込)
対象年齢:中学生以上
ご予約:
 8月  5日(土)[夏休み特別入門]油絵具づくり 23/08/05 – PIGMENT TOKYO
 8月19日(土)[夏休み特別入門]油絵具づくり 23/08/19 – PIGMENT TOKYO
 8月26日(土)[夏休み特別入門]油絵具づくり 23/08/26 – PIGMENT TOKYO


油絵具と聞くと、どのような絵具を思い浮かべますか。
その素材はとてもシンプル。色の粉である顔料に油を混ぜて作られています。
講座前半は、古典的な製法で油絵具を手作りし、歴史を踏まえた素材の特性に迫ります。
後半は、ご自身で作った絵具で作品を制作することで、色材が放つ美しさの原理を体感いただけます。
作品制作にはデザインされたマスキングテープを施したキャンバスをご用意いたしますので、アート初心者や絵を描くのが苦手な方など、どなたでも創作することだけに気持ちを向けられます。
また、日頃から油絵具を使って制作されている方は、素材から絵具を作ることで表現の幅を広げるきっかけになるかもしれません。


では、どのように絵具と作品ができるのか、ご覧ください。

 



絵具の素である色の粉「顔料」と糊剤に「油」を混ぜると、油絵具になります。
本講座では、紅花の種から搾った乾性油(サフラワーオイル)に、植物由来のステアリン酸を添加したオイルカラーメディウムを糊剤に使います。

 

 

 

色の素となる顔料は、水干(すいひ)顔料を使用します。
「水」で精製し、「干」し上げてつくることに由来します。水干絵具の粒子は非常にきめ細かいため、水干絵具同士の混色も可能です。
バランスの良い20色からお好きな色を組み合わせて、絵具を作ります。


顔料がメディウムと混ざり合い、徐々に濡れ色に変化するひと時は、絵具づくり体験の魅力のひとつです。

 

 



こちらのワークショップで使う大理石板練り棒(マーラー)を用いた絵具を練る手法は、現代の絵具製法の原点となる作り方です。
講師がデモンストレーションを交えながら、材料、道具、手順についてレクチャーいたします。

 




同じ顔料を使っていても、組み合わせ方で千差万別の色が生まれます。予想外の偶然も取り入れながら、感覚を頼りに好みの色を探してみてください。
丹精込めてよく練っていくと、油絵具ならではの深みと艶のある絵具ができあがりです。

 


続いて、できたばかりの油絵具をコットンキャンバスに塗っていきます。

 



白いキャンバスにコシの強い豚毛筆で絵具をたっぷり塗ります。
着彩後、キャンバスのマスキングをきれいに剥がすと、絵具チューブを象ったシルエットが画面に表れます。
油絵具の筆触や重厚感、鮮彩さを感じ、普段は他の色材を使われている方は、水彩絵具とは異なる基底材への浸透の違いや透明感など、新鮮な驚きを経験できることでしょう。

作品制作後に余った油絵具のお持ち帰りをご希望される方はラップフィルムにてお包みいたしますので、講師にお声掛けください。(※絵具用のチューブはお配りいたしませんので、ご了承ください。)

 

 


 

完成した作品は、木製の額に入れて安全にお持ち帰りいただけるように緩衝材をご用意しております。
ご自宅でインテリアとして飾りながら、絵具の乾燥とともにゆっくりと変化する色合いを眺めるなど、ご帰宅後もお楽しみください。



また、お子様向けや親子でアート体験できるワークショップもございます。
こちらは、親子でのご参加や自由研究に画材や制作技法をご検討されている方におすすめです。
 PIGMENT TOKYOの夏休み — こども・親子ワークショップ—

 

 

 

創作活動やお仕事、日常生活のプラスアルファに、夏の余暇にアートワークショップはいかがでしょうか。

Profile

白石 奈都子

PIGMENT TOKYO 画材エキスパート

白石 奈都子

多摩美術大学染織デザイン専攻卒業。オリジナルの紙や和紙、書を主体とした制作に携わり、現在はアーティストとして活動中。

多摩美術大学染織デザイン専攻卒業。オリジナルの紙や和紙、書を主体とした制作に携わり、現在はアーティストとして活動中。