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PIGMENT LAB TOKYO

メトロポリタン美術館のアーカイヴで振り返る”メディウム“

2019-06-04

メトロポリタン美術館のウェブサイトでは、収蔵作品のアーカイヴがフリーで公開されています。欧米の美術作品はもちろん、東洋美術についても様々なアーカイヴが残されており、PIGMENT ARTICLEでも非常にお世話になっております。

作品タイトルはもちろん、制作された時代や地域での詳細検索にも対応しておりますので、研究のほか、ちょっとした息抜きにも、ぜひみなさまもアクセスしてみてください。


The Metropolitan Museum of Art

https://www.metmuseum.org

 

ときにみなさま「メディウム」という言葉からどのようなものを思い浮かべますか。こちらのサイトでもたびたび登場するメディウム、油系と水系だけでも色々なものがございます。

(詳細は当ARTICLEの「PIGMENT岩泉館長が語るメディウムの概要とその特質 vol.1」もご覧ください)

例えば、水系の糊材だけでもこれくらいの種類があるのですが……みなさまは何個くらい、ご存知でしょうか。

 

1.フレスコ(フレスコ画)

2.卵メディウム(テンペラ画)

3.カゼインメディウム(カゼイン絵具)

4.膠液(日本画・墨)

5.アラビアメディウム(透明水彩絵具・ガッシュ)

6.アクリルエマルション(アクリル絵具)

7.水系アルキドエマルション(アキーラ)

 

日本絵画で使われる膠や、小学校の図工の時間で使われる水彩絵具やアクリル絵具、アキーラなどはご存知かもしれませんが、1~3のメディウムはあまり馴染みの無い方が多いのではないでしょうか。

今回、メトロポリタン美術館のアーカイヴを利用しつつ、メディウムの視点からいくつかの作品を鑑賞してみましょう。

 


壁の上塗りの漆喰が乾ききる前、まだ柔らかいうちに、水で溶いた顔料で描くフレスコ画は、壁画技法の代表的なもののひとつです。また、顔料が壁体に吸収され、乾燥する際に壁画の表面が透明の薄い膜で覆われるため、保存性にも優れています。

こうしたフレスコ画の中で馴染み深い作品ですと、ポンペイの壁画群が挙げられるでしょう。


《Cubiculum (bedroom) from the Villa of P. Fannius Synistor at Boscoreale》(ca. 50–40 B.C.)

The Metropolitan Museum of Art

https://www.metmuseum.org/art/collection/search/247017


紀元前の作品にも関わらず、トロンプ・ルイユ(だまし絵)を思わせるイリュージョニスティックな空間をも可能にしたとは驚きですね。その後もフレスコ画は発展を続け、14世紀から16世紀のイタリアで花開いたと言われています。



次はテンペラ絵具。当ラボのワークショップでも何回かご紹介しております、テンペラ画です。顔料に展色材として卵(卵黄・卵白・全卵)を混ぜ合わせるこの絵具は、ほどよく艶のある輝かしい発色が得られ、絵具の伸びも良いメディウムです。


《The Annunciation》(ca. 1485-92) Botticelli

The Metropolitan Museum of Art

https://www.metmuseum.org/art/collection/search/459016


19.1 x 31.4 cmという決して大きくはないサイズの板にここまで細密に描くためには、テンペラ絵具の持つ特性が不可欠だったと言えるでしょう。また光の表現として、金箔も併用されました。15世紀以降、油絵具の台頭により古典技法として扱われているテンペラ絵具ですが、まだまだ秘めたる魅力を備えたメディウムのひとつです。



そして最後にご紹介するのがカゼイン絵具によるカゼインメディウムです。これは、牛乳の蛋白質から採取される膠状の物質を酸によって凝固させ、水に溶けにくくしたものになります。もちろんこのカゼインも古くから使われているメディウムなのですが、これを近代美術の作品に利用した作家がいます。抽象絵画の巨人、マーク・ロスコです。


《Untitled》(1964)Mark Rothko

The Metropolitan Museum of Art

https://www.metmuseum.org/art/collection/search/486665


彼は本作でカゼインとアクリル絵具を併用しているほか、他の作品ではテンペラ絵具も使った混合技法で作品を制作しておりました。オプティカル・アーティストの金字塔であるブリジット・ライリーも自身の作品に乳材系の接着剤や合成樹脂を使用するなど、メディウムによる絵肌を探求した作家の1人です。

 


今回の記事で取り上げきれなかった水系メディウムたちも、それぞれ独特な質感を持っております。それらの特質を目で“見て”、“知る”ことは美術鑑賞をするための水先案内人になるのはもちろん、作品制作されているみなさまにおかれましては良質なナレッジとなるでしょう。

 

この度PIGMENT LAB WORKSHOPでは、京都造形芸術大学の教授でもあり、西洋画画材を軸に、東洋画画材も取り入れたスタイルで作品制作を行う、青木芳昭教授による「ほんとはしらない えのぐの おはなし。〜絵具より、メディウム(結合材)を重視せよ!〜」の第一回、水系メディウム(合成樹脂)編を開催いたします。

 

ここで扱わなかったメディウムについても、青木教授独自の目線で鋭く、かつ初心者の方にもわかりやすく解説するワークショップとなっております。美術がお好きな方も、実際に制作をされているアーティストの方も、ぜひご受講ください。



講座情報



[特講]ほんとはしらない えのぐの おはなし。

絵具より、メディウム(結合材)を重視せよ!

第1回・水系メディウム(合成樹脂)

 

Lecture by 青木 芳昭

2019/06/16(Sun)

13:00 - 16:00

 

エントリーフォームはこちらとなります。

https://pigment.tokyo/ja/workshop/detail?id=164

 

 

参考書籍

益田朋幸・幸多崎親・編著(2005),岩波西洋用語美術辞典,岩波書店(東京)

Profile

PIGMENT TOKYO 画材エキスパート

大矢 享

PIGMENT TOKYO 画材エキスパート 1989年東京生まれ。 日本大学大学院芸術学研究科造形芸術専攻博士前期課程修了。 PIGMENTにて画材エキスパートとしてとして携わりながら、平面作品を中心にアーティストとしても活動中。

PIGMENT TOKYO 画材エキスパート 1989年東京生まれ。 日本大学大学院芸術学研究科造形芸術専攻博士前期課程修了。 PIGMENTにて画材エキスパートとしてとして携わりながら、平面作品を中心にアーティストとしても活動中。