身近なモチーフを描く-自宅で始める油絵具-

身近なモチーフを描く-自宅で始める油絵具-

3C*1への配慮やStay Homeの動きを受けて、昨年より自宅で過ごす時間が増えたという方は多いのではないでしょうか。

*1(Three Cs:closed spaces,crowded places and close-contact settings)


当ラボではご自宅でもお楽しみいただける動画コンテンツの配信など、新たな試みでみなさまにアートの体験を提供しておりますが、その中でも自宅で作業をするには少々ハードルが高い画材があります。それが油絵です。


といいますのも、油絵は指触乾燥まで非常に時間がかかるということもさることながら、希釈材として使用するテレピンやペトロールなどの揮発性油の取り扱いには少々注意が必要なのです。

武蔵野美術大学が提供している『造形ファイル』には、揮発性油の使用にあたり“使用環境は、可燃性や中毒性が高いため室内の換気を良くし、火気のある場所での使用は避けるなどの注意が必要です。*2”と記されています。

*2 (http://zokeifile.musabi.ac.jp/wpwp/wp-content/uploads/2014/07/052_essential-oils.pdf)


油絵具は光沢感と堅牢性に優れたメディウムですが、揮発性油は必要不可欠。そうした問題をクリアし、自宅などで、快適に油絵を楽しみたいという方のために開発されたのが、ホルベインの水可溶性油絵具 DUO。


本来、油絵具はその名の通り「油」を使用しておりますので、水に溶けることはありません。しかしDUOは、ほんの数%「界面活性剤」が配合されております。この界面活性剤が水と油を繋ぐことで、ペトロールなどの揮発性溶剤のかわりに水で薄められ、筆も水で洗うことが可能です。


今回は20世紀に活躍したイタリアの画家、モランディ*3の作品を参考に、PIGMENTの商品をモチーフにDUOで油絵を描いてみました。

さて、この油絵具を使うことでどのような表現ができるのでしょう。制作過程の写真と併せながらみてみましょう。

*3(https://www.metmuseum.org/art/collection/search/687851)




①下地作り



まず、キャンバスの地塗りを行います。

油絵具は他の絵具と比べて粘度が強いため、豚毛などの硬い筆で薄くのばすように描くことができます。ただ、前述のとおり乾燥速度が遅く、待ち時間が長いため、油絵具のみで短時間で仕上げることは容易ではありません。そこで早速この絵具の特性を利用します。

なんとこのDUO、アクリル絵具を混ぜることもできるのです。これにより、油絵具特有の粘度を保ちながら、下地材をつくることができます。

この作品では、松田のチタニウムホワイトとDUOのバーントアンバーを混ぜて調色しました。




②下書き



おおまかな構図を決めるために下書きをします。

ここで概ねの形態感はもちろんのこと、全体のコントラストについてもイメージを掴めていけると良いでしょう。通常の油絵具ではこのプロセスは揮発性油を主に使用するのですが、今回は水で薄めたDUOで仕上げていきます。

今回初めてこの絵具を使用して静物を描いてみたのですが、揮発性油を使用した際と比べて、違和感がありません。

水の滲みなども使いながら、なんとなく完成イメージを掴んでいきます。

絵皿があると水で薄めた絵具を使用するときに便利です。




③本描きI



そして次に、色を載せていきます。

ここでDUOの乾燥速度を促進させるために、DUOクイックドライングメディウムグロスを使用します。

このメディウムを絵具と同量程度混ぜることでDUOを1日程度で乾燥させることができるのですが、透明度が上がってしまったり、色の発色が落ちてしまう可能性もあるため、使用は最低限にすると良いでしょう。

また、筆運びが悪くなった場合はペインティングオイルを加えて、粘度を調整します。




④本描きII



先ほどよりも使用する油の量を増やして、ハイライトやモチーフの細い部分などの加筆を行います。

油絵具には「ファットオーバーリーン」*4という、描く上での決まり事のようなものがあります。重ね塗りする絵具は下の層の絵具より油分を多くすることで、画面のひび割れを防ぐのはもちろん、作品に乾性油特有の光沢感を与えることができます。

*4(https://www.bonnycolart.co.jp/howto/detail/5/)

ここで追加するのはDUO専用のリンシードオイル。

この他にもなんと水溶性のスタンドオイルもラインナップされており、アーティストの好みに合わせて本格的な絵画表現をすることができます。




⑤完成



そして最後に細かい部分を描写して完成です。

画材の準備等も合わせて、6時間未満で仕上げることができました。

もちろんお片付けも簡単で、筆はアクリル絵具等と同様に、水と石鹸を使えば綺麗に洗うことができます。


キッチンでも、リビングでも。洋裁店で買ってきたハギレの上に、家庭にあるお皿や果物、ガラス瓶を組み合わせて配置し、そしてキャンバスとDUOを用意するだけで、そこはあなたのアトリエになります。


ぜひ、ホルベルンのDUOで新しいアート生活をスタートしてみてください。

Profile

大矢 享

PIGMENT TOKYO 画材エキスパート

大矢 享

1989年東京生まれ。 日本大学大学院芸術学研究科造形芸術専攻博士前期課程修了。 PIGMENTにて画材エキスパートとして携わりながら、平面作品を中心にアーティスト活動中。

1989年東京生まれ。 日本大学大学院芸術学研究科造形芸術専攻博士前期課程修了。 PIGMENTにて画材エキスパートとして携わりながら、平面作品を中心にアーティスト活動中。