日本製鉄株式会社×PIGMENT TOKYO〜世界最高級の技術とものづくりの発信地、東日本製鉄所 直江津地区を探る〜①

日本製鉄株式会社×PIGMENT TOKYO〜世界最高級の技術とものづくりの発信地、東日本製鉄所 直江津地区を探る〜①

PIGMENT TOKYOは、世界最高級の技術とものづくりの力を追求している日本製鉄株式会社とコラボレーションし、同社の意匠チタンであるTranTixxii®の技術を用いて、世界初の絵画表現用の基底材を販売いたします。


このチタン、実は世界最先端の技術の蓄積によって生み出されているのですが……

「そもそもチタンって何だろう?」なんてお思いの読者の方もいらっしゃるはず。

そこで、チタンについての基礎知識について教えていただくべく、工場見学の予習として先月初旬、日本製鉄株式会社の東京本社にお邪魔いたしました。


今回、チタンのさまざまな秘密ついて解説してくださったのは、日本製鉄株式会社チタン事業部チタン営業部の建材室室長(取材当時)、舞山哲也様です。


チタンのいろはについて丁寧に解説していただきました



―そもそも、チタンとはどういったものなのでしょうか?

チタンは軽い・強い・錆びない等の優れた特性から、航空宇宙分野をはじめ、化学プラントから電力プラント、自動車、建築などなどの様々な用途で使用されている金属です。

また、工業生産開始からの歴史が約70年と、銅や鉄、アルミなどの他の金属と比べたときに歴史が浅く、「若い金属」とも称されることがあります。


―確かに、最先端の技術を駆使して作られているというイメージがありますね。

のちほど工場でもご覧になるかと思うのですが、チタンはその製造工程に大量の電力を要します。つまり、人類が電気を大規模にコントロールできるようになってから発展した金属で、そのタイミングが戦後の1947年にありました。


チタンの原料となるチタン鉱石(酸化チタン)


鉱物から大量の電力を用いてチタン単体を抽出するとスポンジチタンとなり……



ペレットとして出荷されます。ここから色鮮やかなチタンになるのはまだ先の話



―ということは、原材料も非常に希少なものなのでしょうか?

いいえ。チタンは地球上に4番目に多い金属と言われており、私たちの身近な岩や石を含めた様々な鉱物のなかに存在しています。

しかしながら、酸化と非常に強く結びつく性質から、通常の環境において金属単体として表出することがなく、豊富に存在するにも関わらず18世紀に到るまで人類は発見することすら出来ませんでした。

また、発見後も強力な酸素との結合から単体として分離する技術はなく、工業利用することは容易ではありませんでした。

戦後、電気を大規模に発電と送電し、使用する環境が整ったことで、はじめて安定的なチタンの抽出に成功しました。

実はこのチタン、すでにPIGMENT TOKYOでも並んでいるんですが何だかお分かりになりますか?


―チタンというと、スポーツ用品など私たちとは縁遠いものに感じてしまいますが……チタニウムホワイトですね。

そのとおりです。

実にチタンの製造における90%近くが顔料の用途で製造されています。


文字通り酸化チタンの白でチタニウムホワイト



―でも、チタンというと白いイメージがありませんが何故白くなるのでしょうか。

チタニウムホワイトの原料となる酸化チタンはもともと透明な色をしています。ただ、その粒子を細かくしていくと、粒子が乱反射をして白く見えるようになるんです。


―では今回、当ラボが取り扱いさせて頂く意匠チタンTran Tixxiは非常に鮮やかな発色を放っておりますが、こちらは無色のチタンに着色をしているのでしょうか?

こちらは100%チタンのみで、この色を表現しています。

キーワードとなるのは、「酸化被膜」です。


―酸化被膜……?

先ほどからお話したとおり、チタンは酸素との結びつきが非常に強く、抽出の難しい金属です。そのため、チタンの表面は常に酸素と結合し、酸化チタンの無色透明な膜で覆われています。これを酸化被膜というのです。

この酸化被膜は堅牢性に優れているため、チタンは錆びず、安定した性質を持っているのです。

そしてこの透明な膜を活用し、TranTixxii®シリーズが完成しました。




―透明な膜だけでどのように色の変化を生み出しているのでしょうか。

はい、干渉色という現象を活用しています。光と透明な薄い膜は、プリズム効果による光の屈折と合成を生み出し、その厚みに応じて特定の波長の光を反射させます。

空が青く見えたり、シャボン玉が虹色に見えるのもこの現象によるものです。

TranTixxii®についても、表層にあるナノレベルの酸化皮膜の厚みをコントロールすることで、光の屈折と合成による色相の変化を表現しております。皮膜が一番薄い状態の場合は灰色の金属色なのですが、そこに少しずつ厚みを加えていくことで、黄金色から青・紫・ピンク・緑までの色彩表現が可能となります。


膜厚と干渉色との関係(TranTixxii®公式ホームページより)



―凄い技術ですね。

コントロールするだけでなく、その皮膜の厚みによる色相の耐久性もTranTixxii®の特徴なんです。あまり知られていないことなのですが、一般チタン材はチタンの強い酸素との結びつきから、皮膜が年月を経て徐々に成長してしまうため、色相も変化してしまいます。当社では2000年に酸化皮膜の成長を最小限に抑える技術を確率しました。この技術を打ち出しているのは世界的にみてもTranTixxii®だけで、実際の大型建築でもその堅牢性は実証済みです。


木, 屋外 が含まれている画像rnrn自動的に生成された説明

2004年施工の九州国立博物館(TranTixxii®公式ホームページより)


空, 屋外, 水, ボート が含まれている画像rnrn自動的に生成された説明

同美術館の屋根にチタンが使われています。(TranTixxii®公式ホームページより)



―こちらの金色も、その方法を応用して作られたのでしょうか。

こちらの色については、イオンプレーティングという技術を応用してつくられています。こちらは干渉色の原理は用いず、普通の物体色を用いた技術となります。

チタン表面に窒化チタンという金色をした物質の特殊コーティングを電子ビームを照射することで、この金色を表現しております。

この技術を使うことで、本物の金さながらの輝きを持つ意匠を再現しております。




―TranTixxii®シリーズは日本製鉄株式会社がもつ様々な技術の結集なのですね。

ほかにも、表面にマットな質感を与えたり、テクニックを組み合わせたりなど、その色彩表現は無限大です。当社の技術に裏打ちされた加工技術、そしてそのバリエーションによる造形美で、現在TranTixxii®シリーズは様々な建築物・プロダクトに使用されております。

また、本日お見せしたもの以外にも、多種多様な造形的表現が可能となっております。今回のPIGMENT TOKYOとのコラボレーション企画はもちろん、ぜひTranTixxii®シリーズの今後についてもご期待ください。



さて。第2回は日本製鉄株式会社 東日本製鉄所 直江津地区にお邪魔し、その最新鋭の技術の現場に迫ります。どのような現場でチタンが作られているのでしょうか。ぜひご覧ください。



企業情報

日本製鉄株式会社 本社

東京都千代田区丸の内二丁目6番1号(丸の内パークビルディング)

TEL:03-6867-4111 / FAX:03-6867-5607

https://www.nipponsteel.com/index.html


TranTixxii®公式ホームページ

https://www.nipponsteel.com/product/trantixxii/


Profile

大矢 享

PIGMENT TOKYO 画材エキスパート

大矢 享

1989年東京生まれ。 日本大学大学院芸術学研究科造形芸術専攻博士前期課程修了。 PIGMENTにて画材エキスパートとして携わりながら、平面作品を中心にアーティスト活動中。

1989年東京生まれ。 日本大学大学院芸術学研究科造形芸術専攻博士前期課程修了。 PIGMENTにて画材エキスパートとして携わりながら、平面作品を中心にアーティスト活動中。