絵具が作り出すランダムな表情は時にアーティストの直感を刺激し、想像もし得ないような表情を生み出すことがあります。それは20世紀以降、デカルコマニーやドリッピングをはじめとする表現の登場によってより前傾化し、ひとつの技法として確立されました。
こうしたランダム性を生かした絵画表現として、日本では最近「分離色」というものが注目されています。これは異なる顔料同士を混色した絵具の水分量を調整し、まるでグラデーションのような表情を画面上に作り出したものです。
WEBコンテンツ「PIGMENT ARTICLE」では新岩絵具とエフェクト顔料を混ぜて、分離色を作るという記事も公開しております。
調和を意味するハーモニーから名付けられたハルモニア透明水彩絵具は、異なる色と色が組み合わさることで生まれる共鳴を楽しむことができる、チューブ入り水彩絵具です。
全12色あるこの絵具は色相で隣接するような色から、思いもよらない色まで、さまざまなグラデーションを作り出すことができます。
少し粒子感のあるザラッとした絵肌から、デジタルアートにはない魅力を感じられることでしょう。つい、塗った紙を手にとって、傾けて角度を変えて楽しんでみたくなるようなラインナップが揃っています。「パープルスピネル」や「ウィッチボルドー」「キャッスルグリーン」など、まるで物語を思わせるようなユニークな色名も、この絵具ならではの要素です。
【使用画材】
基底材:水彩用紙
色材:ハルモニア(透明水彩絵具)
たっぷりの水を含ませて基底材の上で絵具を動かすようなイメージで描くと、綺麗な分離色を作ることができます。
1回のストロークで、まるで塗り重ねをしたかのようなランダム性のある表情が生まれるため、絵具が乾燥していく様子も楽しむことができます。
全体的に彩度は低めで調色されており、主役のモチーフに使用するのはもちろん、背景や色面など作品を引き立てるアクセントとしても使用できます。絶妙な調色がされており、水と顔料が作り出す有機的な色相は、草木染めや天然の木々などを想起させます。
もし分離色を自分で作る場合、通常の水彩絵具作りと比べて比重や混ぜる顔料のコントロールが必要なため、初心者の方には少しハードルが高いかもしれません。
しかしこのようにチューブからパレットに出して、水で薄めるだけで使える気軽さは、非常に便利です。
次に、この絵具を少し水で薄めて塗ってみました。
【使用画材】
基底材:水彩用紙
色材:ハルモニア(透明水彩絵具)
濃いめに塗った先ほどの塗りサンプルに対して、こちらは絵具の濃淡による色の変化がより
表れ、水彩絵具特有の水を使ったグラデーションが生まれています。こうした紙の目や質感を残すような塗り方ができるのも、透明水彩の強みです。
水彩絵具は耐水性がなく、アクリル絵具のように上からチタニウムホワイトで塗りつぶしても真っ白になりません。基底材に薄手の紙を使用した場合、あまり手を加えすぎてしまうと破れてしまうため、ミニマムなプロセスで進める必要があり、時にはやり直しが効かないケースもあるでしょう。
顔料の分離が生み出すランダムな調和は、あなたに新たな制作のインスピレーションを刺激してくれることでしょう。